
【政治・軍事報道】 令和五年七月十八日に非営利シンクタンク言論NPO(東京都中央区、代表:工藤泰志)は、北東アジアの平和を脅かすリスクにつき、日・米・中・韓の外交・安保の専門家・百四十三名が採点した調査結果を公表した。
同日及び十九日に『アジア平和会議 二〇二三』を開催。
昨年に上位だった「台湾海峡の偶発的事故」の発生や「台湾有事の可能性」が後退し、「北朝鮮のミサイル発射等の挑発的な軍事行動」が本年のリスクトップとなった。
<北朝鮮が最大リスク>
以下が、本年の北東亜の平和を脅かす最大リスクとして、四ヶ国の専門家が選んだ事象。右項は総合点。
北朝鮮のミサイル発射等の挑発的な軍事行動;6.19
北朝鮮が核保有国として存在する事;6.00
米中対立の深刻化;5.94
デジタル分野における米中の覇権争い;5.86
サイバ攻撃の日常化;5.76
経済安保化と中国排除のサプライチェーン分断の動き;5.60
地球温暖化への対策が間に合わず、異常気象が増大している事;5.34
中国の核軍拡や軍事力の更なる拡大と不透明さ;5.24
アジアで日米韓と中国の対立が強まっている事;5.19
米中間の危機管理の為の対話等のガードレールが機能していない事;5.01
四ヶ国の専門家は、北朝鮮を本年の当該地域の最大リスクだと判断。米中対立の展開や深刻化に伴うリスクが上位に選ばれた。一方で、昨年四位の「台湾海峡における偶発的事故の発生」は十八位、「台湾有事の可能性」も昨年の八位から二十一位に下がった。
今回の採点は、「アジア平和会議」に参加する日中韓米四ヶ国のシンクタンクや安保専門家が協力。日本では言論NPO、米国では「パシフィックフォーラム」、中国では「人民解放軍系」を含めた二つのシンクタンク、韓国は「アサン研究所」が協力。
外交・安保に関係する政府幹部OBや専門家がアンケートに協力した。回答に協力した専門家は、日本は五十二名、米国は三十三名、中国は五十一名、韓国が七名。
各国別結果
日本では、「評価基準A:北東アジアでリスクが実際に発生する可能性」と「評価基準B:北東亜の平和に対する影響とその深刻さ」の合計で「六点」を上回った項目が六項目あった。六点は、深刻な影響に発展しかねないリスク。本年の発生可能性が半々。以下が六項目。
北朝鮮が核保有国として存在する事
北朝鮮のミサイル発射等の挑発的な軍事行動
中国の核軍拡や軍事力の更なる拡大と不透明さ
米中対立の深刻化
サイバ攻撃の日常化
デジタル分野における米中の覇権争い
七点に迫ったのは、最近のミサイル発射等の動きを反映し、日本の専門家が北朝鮮の行動に高いリスクを感じている為、リスク発生を半々以上だと判断。日本の専門家は昨年と同様に、中国の軍事力の拡大を強く意識。それに伴う米中対立の深刻化や経済・技術の分断の影響に強い関心を示している。
米国では、総合点で六点を超える項目は無かった。以下が上三位。
米中対立の深刻化
北朝鮮のミサイル発射等の挑発的な軍事行動
中国の核軍拡や軍事力の更なる拡大と不透明さ
米国の専門家は、台湾海峡での危機勃発の可能性は低いと視ているものの、それが現実化した場合の脅威は非常に大きいと視ている。
中国では、六点以上が三項目あった。
日本外交が米国一極に傾き、バランスを欠いている事
日本の防衛費の増額
地球温暖化への対策が間に合わず、異常気象が増大している事
中国の専門家が、本年の北東亜のリスクとして認識しているのは、日本の外交・安保政策の動向である事が明らかになった。「米中対立」の影響の深刻さには強い危機感を抱いてるが、米中の対話再開等の動きも反映し、当該リスクの発生の可能性の認識が後退した為、日本への意識が高まる構造になっている。
韓国では、六点以上が四項目あった。
北朝鮮のミサイル発射等の挑発的な軍事行動
米中対立の深刻化
北朝鮮が核保有国として存在する事
デジタル分野における米国と中国の覇権争い
韓国の専門家は、「北朝鮮」と「米中対立」に懸念が集中している。五点台まで広げると、「中国の核軍拡や軍事力の更なる拡大と不透明さ」や「共産党体制で権力を掌握した習近平体制の行動」等があり、中国の行動をリスクと判断している事も分かる。
取組むべき課題
北東アジアの平和実現の為に取組むべき課題も聞いた。結果、中国の専門家では「日中、日韓、米中等の大国関係の安定」が八割で突出。対して米国の専門家では「中国の軍事台頭に対する日米同盟、米韓同盟等米国主導の抑止力の向上」が六割で最多。
「米国の核抑止をより徹底させる事」も三割で、自国の抑止力を重視する意見が多く見られた。
韓国も同様に「中国の軍事台頭に対する日米同盟、米韓同盟等米国主導の抑止力の向上」と「米国の核抑止をより徹底させる事」が共に四割。
日本では「日中、日韓、米中等の大国関係の安定」が六割弱で最多。次いで「中国の軍事台頭に対する日米同盟、米韓同盟等米国主導の抑止力の向上」が三割となった。
=評価方法=
評価方法は、先ず言論NPOのアジア外交の議論や活動に参加する日本有識者・約五百人へのアンケート(回答は三百三十三人)を行い、北東アジアの安保リスクに伴う評価項目を二十五に絞り込んだ。
次に、各項目を日米中韓の外交・安保の専門家が二つの基準で採点(中国のみ二十四項目で採点)。二つの評価基準は「評価基準A:北東アジアでリスクが実際に発生する可能性」と「評価基準B:北東亜の平和に対する影響とその深刻さ」。
本評価は、六月~七月に掛けて行った。各四点の配点となり、二つの評価に基づく採点を足して算出。八点満点。採点につき、以下の二つの基準に基づいて評価を行った。
評価基準A
四点;既に発生
三点;本年に発生する可能性は高い
二点;本年に発生するか否か、可能性は半々
一点;本年に発生する可能性は低い
〇点;発生する可能性は全く無い
評価基準B
四点;この地域に紛争や被害を生じさせる可能性が極めて高い状況(影響は極大)
三点;この地域に紛争や被害を生じさせる可能性は高いが、深刻な状況には至っていない(影響は大)
二点;この地域の平和に影響を及ぼす懸念がある(影響は中)
一点;この地域の平和とは直接関係ないか、或いは関係があったとしても影響は軽微(影響は小)
〇点;影響は全く無い
画像:(特非)言論NPO